日本人と睡眠
日本人がもっとも長生きした睡眠時間は7時間だった
約10万人の日本人を追跡したJACC研究では、死亡率がもっとも低かったのは1日7時間睡眠の人たちでした。短すぎても長すぎても危険が上がる「U字」の関係を、反証も含めて解説します。
カフェインは就寝6時間前に飲んでも睡眠を1時間近く削ることが実験で示されています。さらに日本人を含む東アジア人はカフェインの効き方に遺伝的な個人差が大きい。緑茶文化の国・日本ならではの視点で解説します。
午後3時に飲んだコーヒーが、その夜の眠りを1時間近く削っているかもしれません。カフェインは就寝6時間前に摂っても総睡眠時間を約1時間短くすることが、二重盲検の実験で示されています[1]。しかも本人は眠りの悪化に気づきにくいのです。
さらに見落とされがちなのが、カフェインの効き方には大きな個人差があるという点です。そしてその差には、日本人を含む東アジア人ならではの傾向があります。
カフェインは、眠気を生み出す物質アデノシンの働きをブロックします。問題は、その効果が長く続くことです。カフェインが体内で半分に減るまでの時間(半減期)は、健康な成人でおおむね4〜6時間とされています。
Drakeらはこのことをはっきりとした実験で示しました。健康な成人にカフェイン400mgを就寝の0時間前・3時間前・6時間前に飲んでもらったところ、6時間前でも睡眠が約1時間短くなったのです[1]。
ただしこの研究にも限界があります。対象は健康な成人で、毎日コーヒーを飲む人では耐性により影響が小さいかもしれません。投与量も一般的な一杯より多めです[1]。
同じコーヒーでも、眠れなくなる人とならない人がいます。その鍵を握るのが、カフェインを分解する肝臓の酵素CYP1A2です。
CornelisらはCYP1A2の遺伝子型によってコーヒーの代謝速度が大きく変わることを示しました[2]。「分解が遅い型」の人は、カフェインが体内に長くとどまり、影響を受けやすくなります。
さらに、眠りへの効きやすさには別の遺伝子も関わります。アデノシンA2A受容体の遺伝子(ADORA2A)の型によって、同じ量のカフェインでも睡眠の乱れ方に個人差が出ることが実験で示されています[3]。「コーヒー1杯で眠れない」は、気のせいではなく体質である可能性があります。
ここに日本人ならではの事情が加わります。カフェイン代謝・感受性に関わる遺伝子の出現頻度は集団によって異なり、東アジア人に特有の型も報告されています[4]。
加えて日本は緑茶文化の国です。緑茶にもカフェインは含まれ、特に玉露はコーヒーに匹敵します。「お茶だから大丈夫」とは限りません。ただし、睡眠の質まで直接調べた大規模な日本人対象の研究はまだ少なく、結論は暫定的です[4]。
各論文の「主な結果」とあわせて、相反する結果や限界(反証)も併記しています。 集団タグは研究対象(日本人/欧米など)を示します。
結果カフェイン400mgを就寝6時間前に摂っても、総睡眠時間が約1時間短くなった。本人が眠りの悪化に気づかない例も多かった。
反証対象は健康な成人で、習慣的なカフェイン摂取者では耐性により影響が小さい可能性。投与量(400mg)が一般的なコーヒーより多めという指摘もある。
doi:10.5664/jcsm.3170 ↗結果カフェインを分解する酵素CYP1A2の遺伝子型によって代謝速度が異なり、「遅い代謝型」では多めのコーヒー摂取が心筋梗塞リスク上昇と関連した。
反証睡眠そのものは測っていない。対象はコスタリカの集団で、遺伝子型だけで睡眠への影響を予測できるわけではない。
doi:10.1001/jama.295.10.1135 ↗結果アデノシンA2A受容体遺伝子(ADORA2A)の型によって、同じ量のカフェインでも睡眠の乱れ方に個人差が出ることを示した。眠れる人と眠れない人がいるのは体質差でもある。
反証対象はスイスの健康成人で少人数。遺伝子型は感受性の一因にすぎず、習慣・年齢・体重の影響も大きい。
doi:10.1038/sj.clpt.6100102 ↗結果カフェイン代謝・感受性に関わる遺伝子(CYP1A2・ADORA2A 等)の出現頻度は人種・集団で異なり、東アジア人に特異的な変異も報告されている。
反証レビューであり個々の研究の質はばらつく。遺伝子頻度の差が「日本人の睡眠」にどれだけ効くかを直接測った大規模研究はまだ少ない。
doi:10.1186/s12967-024-05737-z ↗コーヒーは何時間前までに飲めばいいですか?
実験では就寝6時間前のカフェインでも睡眠が約1時間短くなりました。眠りに敏感な人は、午後2〜3時以降のカフェインを控えるのが安全です。感受性には個人差があります。
自分はコーヒーを飲んでもすぐ眠れます。問題ないですか?
寝つけても睡眠の質は落ちている可能性があります。実験では本人が悪化に気づかない例が多くありました。ただしカフェイン代謝が速い遺伝子型の人は影響が小さい傾向があります。
緑茶やほうじ茶なら大丈夫ですか?
緑茶にもカフェインは含まれます。玉露はコーヒー並みに多く、煎茶やほうじ茶は比較的少なめです。夜は麦茶やそば茶などノンカフェインの飲み物が無難です。