睡眠のしくみ
レム睡眠とノンレム睡眠は、ひと晩に4〜5回入れ替わる。朝方に夢が増えるのはそのためだった
眠りは一定ではなく、ノンレム睡眠(深い眠り)とレム睡眠(浅く夢を見る眠り)が約90分ごとに入れ替わります。深い眠りは前半に、レム睡眠は後半に増えるため、朝方は夢を見やすくなります。睡眠の仕組みを、論文と反証から解説します。
睡眠アプリやApple Watchは「寝ていたか起きていたか」はかなり正確ですが、レム睡眠や深い眠りの段階を当てる精度はまだ低いです。スコアに振り回されてかえって眠れなくなる「オルソソムニア」も報告されています。睡眠トラッカーの正しい使い方を論文から解説します。
スマートウォッチや睡眠アプリの「睡眠スコア」は、眠りの深さまでは正確に当てられません。「寝ていたか起きていたか」の判定はかなり正確ですが、レム睡眠や深い眠りといった段階の判定は、精度のばらつきが大きいのが現状です[1]。さらに、数値を気にしすぎてかえって眠れなくなる人もいます[2]。
便利な道具ですが、スコアを絶対の成績表のように受け取る必要はありません。
7機種を医療検査と同時に比べたChinoyらの研究が、現状をはっきり示しています[1]。
つまり「睡眠時間」はそれなりに信用できても、「深い眠りが◯分」「レム睡眠が◯%」という内訳は、参考程度に見るのが正解です。
どれくらいの精度なのかは、数字でも確かめられています[5]。
東アジアでも傾向は同じです。中国の不眠患者37人を調べた研究では、Fitbitは浅い眠りを約38分多く、深い眠りを約41分少なく見積もりました[6]。日本人を対象にした検証はまだ確認できませんが、段階の内訳が大きくずれる点は共通しています。
睡眠段階を正確に判定するには、脳波が要るからです。医療検査である睡眠ポリグラフ(PSG)は、脳波(EEG)・眼球運動・筋電図を同時に記録して、レム睡眠や深い眠りを見分けます。これが睡眠段階判定のゴールドスタンダードです[4]。
一方、手首のスマートウォッチは脳波を測っていません。測っているのは体の動きと脈拍だけです[3]。
とくにレム睡眠と浅い眠りは心拍の特徴が似ているため、脈拍からの推定では取り違えやすくなります。だからレム睡眠やノンレム睡眠の本当の段階は、脳波でしか正確には分かりません。
むしろ注意したいのが、数値へのこだわりが眠りを乱すことです[2]。
スコアが悪い日があっても、日中の調子が良ければ問題ありません。眠りは、数値ではなく体感で評価するのが基本です。
各論文の「主な結果」とあわせて、相反する結果や限界(反証)も併記しています。 集団タグは研究対象(日本人/欧米など)を示します。
結果市販の睡眠トラッカーは「寝ていたか起きていたか」の判定は、医療用の体動計と同等以上に正確だった。一方で、レム睡眠や深い眠りなど睡眠段階の判定は精度のばらつきが大きく、まだ信頼しきれない。
反証対象は若く健康な成人34人で、不眠や高齢者では精度が変わる可能性がある。機種や世代でも性能差が大きい。
doi:10.1093/sleep/zsaa291 ↗結果睡眠トラッカーのデータを気にしすぎ、「完璧な睡眠」を求めてかえって眠れなくなる人が報告された。研究者はこれを「オルソソムニア(orthosomnia)」と名づけた。データへのこだわりが不眠を悪化させる。
反証症例報告であり、どれくらいの頻度で起きるかは不明。多くの人にとってトラッカーは有用な動機づけになる。
doi:10.5664/jcsm.6472 ↗結果ウェアラブルは睡眠習慣の傾向をつかむには有用だが、医療検査の代わりにはならない。アルゴリズムは非公開で、機種ごとに結果が違うため、数値の絶対視は避けるべき。
反証技術は急速に進歩しており、将来的に段階判定の精度が上がる可能性はある。
doi:10.1249/MSS.0000000000001947 ↗結果睡眠段階は、脳波(EEG)・眼球運動(EOG)・筋電図(EMG)を同時に記録する睡眠ポリグラフ(PSG)で判定するのが標準で、PSGは睡眠検査のゴールドスタンダードとされる。
反証PSGは検査室で一晩拘束され、普段と違う環境のため初夜効果(ふだんより眠りにくい)が出ることがある。
doi:10.1016/B978-0-444-64032-1.00025-4 ↗結果新しい機種は「眠っているか」の判定の感度が0.95〜0.96と高い一方、「起きている」を見分ける特異度は0.58〜0.69と低かった。睡眠段階の一致率は深い眠りで0.36〜0.89、レム睡眠で0.62〜0.89と機種によって大きくばらついた。
反証機種・世代の差が大きく、深い眠りの一致率は研究によって0.36まで下がる。数値の絶対視は避けるべき。
doi:10.2196/16273 ↗結果中国の慢性不眠患者37人で、Fitbitは浅い眠りを約38分多く、深い眠りを約41分少なく見積もった。睡眠/覚醒の感度は89.9%だが特異度は62.2%にとどまり、段階分類は睡眠検査の代わりにならないと結論された。
反証対象が不眠患者で健康な人とは精度が異なる可能性があり、1夜・1機種のみの検証。
doi:10.1371/journal.pone.0275287 ↗睡眠アプリやスマートウォッチは正確ですか?
「寝ていたか起きていたか」はかなり正確です。一方で、レム睡眠や深い眠りなど睡眠段階の判定はまだ精度が低く、機種によって結果も違います。傾向を見る道具と考えてください。
睡眠スコアが低いと心配したほうがいいですか?
数値を気にしすぎる必要はありません。スコアに振り回されてかえって眠れなくなる「オルソソムニア」が報告されています。日中の調子が良ければ、低いスコアを過度に心配しなくて大丈夫です。
トラッカーはどう使えばいいですか?
1日ごとの数値ではなく、1〜2週間の傾向を見るのに使います。就寝・起床時刻の規則性や睡眠時間の確保など、自分の習慣を整える動機づけに役立てるのが賢い使い方です。
スマートウォッチでレム睡眠や深い眠りは正確に分かりますか?
正確には分かりません。レム睡眠や深い眠りの判定は、脳波を測る医療検査(睡眠ポリグラフ)が基準です。スマートウォッチは脳波を測らず、体の動きと脈拍から推定しているだけなので、段階の内訳は機種によって大きくぶれます。睡眠時間の目安としては使えますが、段階の数値は参考程度にしてください。