夜の寝室で眠りながら歯を食いしばる人の横顔と、あごの筋肉に集まる力を表したイラスト
DISORDERS

歯ぎしりは「悪い癖」じゃない。眠りが浅くなる一瞬に、脳が起こす体の反応だった

睡眠時の歯ぎしりは、眠りが浅くなる一瞬(微小覚醒)に脳が起こす律動的な筋肉の動きで、意志の弱さや悪い癖ではありません。欧州の成人の約8%、日本の中高生の2〜3%にみられます。多くは生理現象で、歯の摩耗や顎の痛み・頭痛があるときに対処します。マウスピースは歯を守りますが、歯ぎしり自体を治す確実な証拠はまだありません。

ILLUSTRATION / SUIMIN LAB

睡眠時の歯ぎしりは、意志の弱さや悪い癖ではありません。眠りが浅くなる一瞬(微小覚醒)に、脳が起こす律動的なあごの筋肉の動きです[2]。欧州の成人の約8%、日本の中高生の2〜3%にみられる、ありふれた現象です[1][3]

「気をつければ止められる」と思われがちですが、歯ぎしりは眠っている脳が自動的に起こすため、意識でコントロールするのは困難です。だからこそ、仕組みを正しく知ることが対策の出発点になります。

睡眠時の歯ぎしりとは何か

睡眠時の歯ぎしりとは、眠っている間に歯をすり合わせたり、強く食いしばったりする現象で、医学的には「睡眠時ブラキシズム」と呼びます。音が出るすり合わせだけでなく、音のない食いしばりも含みます[2]

どれくらいの人にみられるのか、大規模な調査があります[1]

なぜ眠っているのに歯ぎしりをするのか

歯ぎしりが起こるのは、眠りが浅くなる「微小覚醒」のときです。微小覚醒とは、本人は気づかないまま脳が一瞬だけ覚醒に近づく、睡眠中に正常に繰り返される現象を指します[2]

この一瞬に、自律神経が活発になり、あごの筋肉がリズミカルに動き出します。これが歯ぎしりの正体です。

順番が大切です。「歯ぎしりをするから目が覚める」のではなく、「眠りが浅くなった結果として歯ぎしりが起こる」のです。

どんな人に多く、何が関係するのか

歯ぎしりと関連する要素は、いくつもわかっています。睡眠時無呼吸、多量の飲酒、カフェイン、喫煙、大きないびき、そして高いストレスや不安です[1]

つまり歯ぎしりは、口やあごだけの問題ではなく、睡眠全体の質や生活習慣とつながっています。ただし、これらは関連であって原因の断定ではありません。

それでも、アルコールカフェインを控えることは、歯ぎしりに限らず睡眠の質を上げる確実な一手です。

日本人ではどうか

日本人を対象にした大規模な調査もあります。中高生およそ10万人を調べた全国調査です[3]

欧米の成人(約8%)より低い数値ですが、これは対象が中高生で、確認の方法も異なるためです。海外の有病率をそのまま日本人に当てはめることはできません。

マウスピースで歯ぎしりは治るのか

歯科でよく勧められるマウスピース(スプリント)ですが、「歯ぎしりが治る」と期待しすぎないことが大切です。質の高い研究を集めても、結論は慎重です[4]

歯ぎしりとどう付き合うか

多くの歯ぎしりは生理現象で、害がなければ過度に心配する必要はありません。次のような症状があるときに対処するのが現実的です。

これらがあれば、まず歯科に相談しましょう。歯を守るマウスピースが選択肢になります。あわせて、大きないびきや日中の眠気があるなら、睡眠時無呼吸が背景にないかの確認も大切です。歯ぎしりは、睡眠と生活を見直すサインとして受け止めるのがよいでしょう。

この記事のまとめ

  • 睡眠時の歯ぎしりは、眠りが浅くなる微小覚醒に伴って脳が起こす律動的な筋肉の動き(RMMA)で、悪い癖ではない(Kato et al., 2001)
  • 欧州の成人で週1回以上は約8%、診断基準を満たすのは約4.4%(Ohayon et al., 2001)
  • 日本の中高生では男子2.3%・女子3.0%。喫煙や抑うつ的な気分と関連(Itani et al., 2013)
  • 飲酒・カフェイン・喫煙・ストレス・睡眠時無呼吸と関連するが、いずれも相関で原因の断定ではない
  • マウスピースは歯を守るが、歯ぎしり自体を治す確実な証拠はない(Cochrane, 2007)。摩耗・顎の痛み・頭痛があれば歯科へ

参考文献と反証

各論文の「主な結果」とあわせて、相反する結果や限界(反証)も併記しています。 集団タグは研究対象(日本人/欧米など)を示します。

  1. [1]Ohayon MM, Li KK, Guilleminault C (2001). Risk factors for sleep bruxism in the general population. Chest.欧米対象 電話調査 / 英・独・伊の一般成人13,057人

    結果週1回以上の歯ぎしりは8.2%、診断基準を満たす睡眠時ブラキシズムは4.4%にみられ、睡眠時無呼吸・多量飲酒・カフェイン・大きないびき・喫煙・高ストレス・不安と関連していた。

    反証自己申告の電話調査で、睡眠検査(ポリソムノグラフィ)による客観確認はなく、示されたのは相関であって因果ではない。

    doi:10.1378/chest.119.1.53
  2. [2]Kato T, Rompré P, Montplaisir JY, Sessle BJ, Lavigne GJ (2001). Sleep bruxism: an oromotor activity secondary to micro-arousal. Journal of Dental Research.総説・メタ解析 睡眠検査による解析 / 健常者・歯ぎしり患者

    結果睡眠時の歯ぎしりは、眠りが浅くなる「微小覚醒」に伴って起こる律動的な咀嚼筋の活動(RMMA)で、エピソードの約79%で脳波の覚醒反応があごの動きの約4秒前に先行し、心拍の加速もあごの活動の直前に始まっていた。

    反証微小覚醒は睡眠中に正常に繰り返される生理現象で、歯ぎしりを「病気」ではなく覚醒に伴う運動現象として位置づける(治療が必須という意味ではない)。

    doi:10.1177/00220345010800101501
  3. [3]Itani O, Kaneita Y, Ikeda M, et al. (2013). Disorders of arousal and sleep-related bruxism among Japanese adolescents: a nationwide representative survey. Sleep Medicine.日本人対象 全国代表調査 / 日本の中高生98,411人

    結果日本人の中高生の睡眠時歯ぎしりの割合は男子2.3%・女子3.0%で、喫煙・夜間の覚醒・いびき・早朝覚醒・抑うつ的な気分と有意に関連していた。

    反証本人や保護者の自己申告に基づく青少年の調査で、成人や、筋電図で確定診断した有病率にはそのまま当てはめられない。

    doi:10.1016/j.sleep.2013.03.005
  4. [4]Macedo CR, Silva AB, Machado MA, Saconato H, Prado GF (2007). Occlusal splints for treating sleep bruxism (tooth grinding). Cochrane Database of Systematic Reviews.総説・メタ解析 システマティックレビュー / ランダム化比較試験5件

    結果マウスピース(オクルーザルスプリント)が歯ぎしりそのものを改善するという十分な証拠はないが、歯の摩耗から守る目的では一定の利益がある可能性がある。

    反証採用された試験がわずか5件で人数も少なく追跡期間も短いため、効果があるともないとも断定できず、大規模な検証が必要。

    doi:10.1002/14651858.CD005514.pub2

よくある質問

睡眠時の歯ぎしりとは何ですか?

睡眠時の歯ぎしりとは、眠っている間に歯をすり合わせたり食いしばったりする現象で、医学的には睡眠時ブラキシズムと呼びます。眠りが浅くなる一瞬(微小覚醒)に、脳が起こす律動的なあごの筋肉の動きです。意志の弱さや悪い癖ではありません。

歯ぎしりの原因はストレスですか?

ストレスや不安は歯ぎしりと関連しますが、唯一の原因とは言えません。研究では、多量の飲酒・カフェイン・喫煙・睡眠時無呼吸・いびきとも関連が示されています。いずれも「関連」であって、それだけが原因と断定はできません。

マウスピースをすれば歯ぎしりは治りますか?

治るとは言えません。マウスピース(スプリント)は歯の摩耗を守る効果は期待できますが、歯ぎしりそのものを止める確実な証拠はまだ不足しています。歯や顎を守る対症的な手段と考えるのが正確です。

歯ぎしりは放っておいて大丈夫ですか?

多くは生理現象で、害がなければ過度に心配する必要はありません。ただし歯がすり減る、朝にあごが痛い・だるい、こめかみの頭痛があるといった症状があれば、歯科で相談してください。大きないびきや日中の眠気を伴うときは睡眠時無呼吸の確認も大切です。

この記事について

文:眠りの科学 編集部

本記事は上記4本の文献に基づきます。新しい研究や反証が出た場合は更新日を改めて反映します。 内容は一般的な情報提供であり、症状がある場合は医療機関にご相談ください。