夜通し起きている人と、明け方に向かう時計を描いたイラスト
THE SCIENCE

24時間眠らないと、脳は酒に酔ったのと同じ状態になっていた

寝なくてもいい日に、体と頭では何が起きているのか。起床から17時間で脳は酒気帯び運転と同じレベルに鈍り、24時間で酩酊状態に相当します。アデノシンの蓄積、感情の暴走、血糖や免疫の乱れ、脳の老廃物まで、徹夜の体内変化を論文で追います。

ILLUSTRATION / SUIMIN LAB

起きている時間が長くなるほど、脳と体は段階的に働きを落としていきます。24時間眠らずに過ごすと、判断力や反応の速さは血中アルコール濃度0.10%——はっきり酒に酔った状態と同じレベルまで低下します[1]。徹夜は気合いでしのげるものではなく、体の中で測定できる変化が次々と起きているのです。

「寝なくてもいい日」に、体と頭では何が起きているのか。起床からの時間を追って、論文をもとに見ていきます。

起きているほど、脳に「眠気の借金」がたまる

まず脳の中では、アデノシンという物質が時間とともにたまっていきます。

アデノシンは脳が活動するほど増え、覚醒を支える神経のはたらきを抑えます。ネコを使った実験では、断眠を続けるほど脳内のアデノシンが増え、眠ると減っていきました[2]。これが「起きているほど眠くなる」、つまり睡眠圧の正体です。

カフェインで眠気が飛ぶのは、このアデノシンが結合する受容体を一時的にふさぐからです。大阪の研究チームがマウスで、カフェインの覚醒作用がアデノシンA2A受容体を介することを示しました[3]。つまりカフェインは眠気を消すのではなく、隠しているだけです。たまった睡眠圧そのものは消えません(カフェインと睡眠の記事)。

17時間起きると、脳は酒気帯び運転と同じくらい鈍る

朝起きてから17時間ほど、つまり夜中に差しかかるころには、脳はすでにお酒を飲んだのと同じ状態になっています。

オーストラリアの研究で、起き続けた時間と飲酒による能力低下を直接比べたところ、起床後17時間で血中アルコール濃度0.05%、24時間で0.10%に相当する成績まで落ちました[1]。日本の酒気帯び運転の基準(血中0.03%)を、徹夜の入り口ですでに超えている計算です。

しかも低下は一様ではありません。徹夜中は、一瞬意識が飛ぶ「マイクロスリープ」が増え、反応がときどき大きく遅れます[4]。怖いのは、本人がその低下にほとんど気づかないことです。

寝ないと、感情のブレーキが効かなくなる

徹夜明けにイライラしたり涙もろくなったりするのも、脳の変化です。

睡眠不足になると、恐怖や不快を感じる「扁桃体」が暴走しやすくなります。一晩眠らせなかった実験では、扁桃体の反応が休息群より60%以上強くなり、それを抑えるはずの前頭前野とのつながりが弱まっていました[5]。理性のブレーキが外れた状態です。

日本人を対象にした研究も、同じ方向を示しています。

体の中では、食欲・血糖・免疫が同時に乱れる

脳だけではありません。一晩から数日の睡眠不足は、体の代謝も揺さぶります。

睡眠を4時間に削ると、食欲を増すホルモン(グレリン)が約28%増え、満腹を伝えるホルモン(レプチン)が約18%減って、食欲が増しました[7]。さらに数日間の寝不足で、血糖を処理する力が30〜40%も落ちました[8]。免疫も下がり、一晩の部分断眠でウイルスを攻撃するNK細胞の活性が約3割低下しています[11]

食欲・血糖・免疫の話は、それぞれ寝不足と食欲寝不足と血糖睡眠と免疫で詳しく扱っています。

徹夜明けの脳には、認知症のもとがたまり始める

一晩の徹夜でさえ、脳には老廃物がたまります。

健康な成人を一晩眠らせなかった研究で、認知症に関わるアミロイドβというタンパク質が、海馬や視床で約5%増えました[9]。睡眠は、日中にたまった脳の老廃物を片づける時間でもあるのです。

一晩の徹夜と認知症のもとについては、徹夜と認知症の記事でさらに掘り下げています。

なぜ徹夜明けの朝、逆に目が冴えるのか

ここが「寝なくてもいい日」の落とし穴です。夜中はつらかったのに、朝になると不思議と目が冴える——多くの人が経験するこの「セカンドウィンド」には、理由があります。

体内時計は、朝から午前に向けて覚醒を促す信号を強めます。この覚醒信号が、たまった眠気を一時的に打ち消すのです。40時間起こし続けた研究でも、能力は一直線に落ちるのではなく、体内時計の覚醒信号が強まる時間帯に一時的に持ち直しました[10]

つまり朝の「冴え」は、睡眠不足が消えたサインではありません。借金は増え続けたまま、体内時計が一瞬それを隠しているだけです。この錯覚にだまされて活動を続けると、午後にはまた強烈な眠気と能力低下が戻ってきます。そもそも本当に眠らずに生きられる人はいないことを、「寝なくても平気な人間」の記事で詳しく検証しています。

結局、徹夜は何を犠牲にしているのか

徹夜の一日は、「使える時間が増える」どころか、判断力・感情・代謝・脳の健康を少しずつ前借りしているだけです。

一晩程度なら、多くの変化はしっかり眠れば回復します。問題は、それを習慣にしたときです。回復しきらない借金が積み重なり、自分では気づかないまま、能力と健康が静かに削られていきます。

この記事のまとめ

  • 起きて約17時間で血中アルコール0.05%、24時間で0.10%(酒に酔った状態)と同じレベルまで脳が鈍る(Dawson & Reid, 1997)
  • 起きるほど脳にアデノシンがたまって眠気の借金になる。カフェインはそれを隠すだけで消さない
  • 睡眠不足は扁桃体を暴走させ、感情のブレーキを外す。日本人でも確認されている(Motomura et al., 2013)
  • 一晩から数日で食欲ホルモン・血糖・免疫が乱れ、脳にはアミロイドβが約5%増える(Shokri-Kojori et al., 2018)
  • 徹夜明けの朝の「冴え」は体内時計による一時的な錯覚で、睡眠負債は消えていない

参考文献と反証

各論文の「主な結果」とあわせて、相反する結果や限界(反証)も併記しています。 集団タグは研究対象(日本人/欧米など)を示します。

  1. [1]Dawson D, Reid K (1997). Fatigue, alcohol and performance impairment. Nature.欧米対象 実験室研究 / n=40・28時間の断眠と飲酒を比較(豪)

    結果起きている時間が10〜26時間の間は、1時間ごとに血中アルコール濃度0.004%ぶんずつ能力が低下した。起床後17時間で0.05%、22時間で0.08%、24時間で0.10%の酩酊に相当する成績だった。

    反証「酒○杯ぶん」は手と目の協調などの心理運動課題から回帰直線で求めた近似で、法律上のアルコール濃度そのものではない。課題によって低下の度合いも異なる。

    doi:10.1038/40775
  2. [2]Porkka-Heiskanen T, Strecker RE, Thakkar M, et al. (1997). Adenosine: a mediator of the sleep-inducing effects of prolonged wakefulness. Science.動物実験 動物実験 / ネコの脳内微小透析

    結果断眠を続けるほど脳の基底前脳でアデノシン濃度が上がり、回復睡眠で下がった。アデノシンは覚醒を促す神経を抑え、眠気を生む「睡眠物質」の有力候補とされる。

    反証動物実験で、上昇は脳の特定部位に限られる。アデノシンが唯一の睡眠物質と決まったわけではない。

    doi:10.1126/science.276.5316.1265
  3. [3]Huang ZL, Qu WM, Eguchi N, ..., Urade Y, Hayaishi O (2005). Adenosine A2A, but not A1, receptors mediate the arousal effect of caffeine. Nature Neuroscience.動物実験 動物実験 / 受容体ノックアウトマウス(大阪バイオサイエンス研究所)

    結果カフェインの覚醒作用はアデノシンA2A受容体を介して起こる。つまりカフェインは眠気を消すのではなく、アデノシンの作用を一時的に妨げて眠気を隠している。

    反証マウスでの結果。A1受容体も基礎的な睡眠の調節には関わっている。

    doi:10.1038/nn1491
  4. [4]Van Dongen HPA, Maislin G, Mullington JM, Dinges DF (2003). The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep.欧米対象 実験室研究 / n=48・4・6・8時間に制限し14日間

    結果睡眠を制限すると注意の途切れ(反応の遅れ)が日を追って蓄積した。ところが本人たちは強い眠気を感じておらず、自分の能力低下に気づいていなかった。

    反証少人数の若年健常者を対象にした実験室研究で、必要な睡眠時間には個人差がある。

    doi:10.1093/sleep/26.2.117
  5. [5]Yoo SS, Gujar N, Hu P, Jolesz FA, Walker MP (2007). The human emotional brain without sleep — a prefrontal amygdala disconnect. Current Biology.欧米対象 fMRI / n=26・約35時間の断眠

    結果一晩眠らせなかった群では、不快な画像に対する扁桃体の反応が休息群より60%以上強くなり、それを抑える前頭前野とのつながりが弱まっていた。理性のブレーキが外れた状態である。

    反証小規模なfMRI研究で、一晩の断眠を見たもの。報酬への反応も増幅されるなど、感情は「負一辺倒」ではないとの指摘もある。

    doi:10.1016/j.cub.2007.08.007
  6. [6]Motomura Y, Kitamura S, Oba K, et al. (2013). Sleep debt elicits negative emotional reaction through diminished amygdala-anterior cingulate functional connectivity. PLOS ONE.日本人対象 fMRI / 日本人男性14人・5日間の睡眠制限(4時間)と通常(8時間)(国立精神・神経医療研究センター)

    結果睡眠不足が進むほど、扁桃体と前帯状皮質のつながりが弱まり、ネガティブな感情への反応が強まった。寝不足が感情のコントロールを崩すことが日本人でも確かめられた。

    反証少人数かつ男性のみで、気分は自己申告。一晩の徹夜ではなく数日の部分的な睡眠制限を見たもの。

    doi:10.1371/journal.pone.0056578
  7. [7]Spiegel K, Tasali E, Penev P, Van Cauter E (2004). Brief communication: sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Annals of Internal Medicine.欧米対象 実験室研究 / 健康な若年男性12人・4時間×2晩

    結果睡眠を4時間に削ると、食欲を増すホルモン(グレリン)が約28%増え、満腹を伝えるホルモン(レプチン)が約18%減り、空腹感と食欲(とくに高カロリー食)が増した。

    反証少人数の男性が対象で食欲は自己申告。その後の系統的レビューではホルモン変化が一貫しないとの指摘もあり、体重増加は「夜に食べる機会が増える」行動の影響が大きいとの見方もある。

    doi:10.7326/0003-4819-141-11-200412070-00008
  8. [8]Spiegel K, Leproult R, Van Cauter E (1999). Impact of sleep debt on metabolic and endocrine function. The Lancet.欧米対象 実験室研究 / 健康な若年男性11人・4時間×6晩

    結果数日間の睡眠不足で、血糖を処理する力(耐糖能)やインスリン反応が30〜40%低下した。若者の血糖処理能力が、耐糖能の落ちた高齢者並みになった。

    反証ごく少人数の男性が対象で、比較が回復睡眠(12時間)との差である点に注意。

    doi:10.1016/S0140-6736(99)01376-8
  9. [9]Shokri-Kojori E, Wang GJ, Wiers CE, et al. (2018). β-Amyloid accumulation in the human brain after one night of sleep deprivation. PNAS.欧米対象 PET / 健康成人20人・一晩の断眠前後

    結果一晩眠らせなかった後、認知症に関わるアミロイドβが右の海馬と視床で約5%増えた。増加は気分の悪化と関連したが、遺伝的リスク(APOE型)とは無関係だった。

    反証一晩だけの横断的な観察で、増えたアミロイドが将来の発症に直結するとは証明されていない。PETの感度に近い小さな変化でもある。

    doi:10.1073/pnas.1721694115
  10. [10]Maire M, Reichert CF, Gabel V, et al. (2018). The alerting effect of the wake maintenance zone during 40 hours of sleep deprivation. Scientific Reports.欧米対象 実験室研究 / 40時間の連続覚醒

    結果40時間起き続けても能力は一直線には落ちず、体内時計が覚醒を強める時間帯(夕方や朝方)に注意力が一時的に持ち直した。眠気の借金が増え続けても、体内時計がそれを覆い隠す瞬間がある。

    反証管理された実験室条件での結果で、朝の持ち直しはあくまで一時的・部分的。基準値まで回復するわけではない。

    doi:10.1038/s41598-018-29380-z
  11. [11]Irwin M, Mascovich A, Gillin JC, et al. (1994). Partial sleep deprivation reduces natural killer cell activity in humans. Psychosomatic Medicine.欧米対象 実験室研究 / 健康な男性23人・夜間の部分断眠

    結果一晩の部分的な断眠で、ウイルスやがん細胞を攻撃するNK細胞の活性が基準の約72%(およそ3割減)まで下がった。一晩の回復睡眠で元に戻った。

    反証少人数の男性が対象で、完全断眠ではなく部分断眠。低下は一晩の睡眠で回復しており、一過性の可能性が高い。

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よくある質問

徹夜すると、何時間で脳の働きはどれくらい落ちますか?

起きて約17時間で血中アルコール濃度0.05%(日本の酒気帯び運転基準を超える)、24時間で0.10%の酩酊と同じレベルまで判断力や反応が落ちます。徹夜は飲酒運転に匹敵する危うさを持ちます。

徹夜明けの朝、なぜか目が冴えるのはどうしてですか?

体内時計が朝に向けて覚醒信号を最大にする「セカンドウィンド」のためです。眠気の借金が消えたわけではなく、一時的に隠れているだけ。だまされて活動を続けると、午後に強い眠気と能力低下が戻ります。

カフェインを飲めば徹夜の悪影響は防げますか?

防げません。カフェインはアデノシンの作用を一時的にふさいで眠気を隠すだけで、たまった睡眠圧や、感情・血糖・脳への変化そのものは消えません。

一晩の徹夜でも体に悪いですか?

一晩でも、血糖処理の低下、食欲ホルモンの乱れ、免疫の低下、脳のアミロイドβ増加など測定可能な変化が起きます。ただし多くは、その後しっかり眠れば回復します。問題は徹夜を習慣にしたときです。

この記事について

文:眠りの科学 編集部

本記事は上記11本の文献に基づきます。新しい研究や反証が出た場合は更新日を改めて反映します。 内容は一般的な情報提供であり、症状がある場合は医療機関にご相談ください。