睡眠の俗説検証
週末の寝だめでは、平日の睡眠負債は返しきれない
平日の寝不足を週末に取り返す「寝だめ」。実験では、週末に好きなだけ眠っても、平日に戻ると血糖や代謝の乱れは元に戻りませんでした。一方で死亡リスクは下がるという研究もあり、評価は割れています。日本人データも含めて検証します。
睡眠負債とは、必要な睡眠と実際の睡眠の差が積み重なった「睡眠の借金」です。1時間の不足を解消するのに4日かかった日本人研究があり、週末の寝だめでは返しきれません。借金は気づかぬうちに脳の働きを下げます。論文と反証から、その正体と対策を解説します。
睡眠負債とは、必要な睡眠と実際の睡眠の差が、借金のように積み重なった状態です。やっかいなのは、たまっても本人が気づきにくいことです。6時間睡眠を2週間続けた人の脳は、2晩徹夜した人と同じレベルまで衰えたのに、本人は「それほど眠くない」と感じていました[1]。しかも、日本人がためた1時間の負債を返すには、4日続けて長く眠る必要がありました[2]。
週末の寝だめで一気に返す——その作戦は、残念ながらうまくいきません。
睡眠負債とは、その人に必要な睡眠時間(最適睡眠時間)と、実際に眠れた時間の差が積み重なったものです。1日30分の不足でも、2週間で約7時間、ひと晩分に近い借金になります。
お金の借金と違うのは、利息のように「脳の働きの低下」が静かに膨らむ点です。そして多くの人は、自分がどれだけ借金しているかを正しく把握できません。
慢性的な睡眠不足のこわさを最も明確に示したのが、Van Dongenらの実験です[1]。
つまり「自分は短い睡眠で平気」という感覚は、あてになりません。能力は落ちているのに、それを感じ取るセンサーまで鈍るのが睡眠負債です。
返済には、思った以上の時間がかかります。日本人を対象にしたKitamuraらの研究が、それを数字で示しました[2]。
1時間の借金に4日。週末2日でまとめて返す計画が、計算上も成り立たないことが分かります。
寝だめの限界は、代謝の面からも確かめられています[3]。
寝だめがまったく無意味というわけではありません。ただ「平日に削って週末に返す」前提では、ツケが残ります。
各論文の「主な結果」とあわせて、相反する結果や限界(反証)も併記しています。 集団タグは研究対象(日本人/欧米など)を示します。
結果6時間睡眠を14日続けた人の脳の働きは、2晩徹夜した人と同程度まで低下した。にもかかわらず本人は「それほど眠くない」と感じ、自分の能力低下に気づいていなかった。
反証実験室の管理下で、対象は若年成人。日中の活動や個人差は反映しきれない。必要睡眠時間には大きな個人差がある。
doi:10.1093/sleep/26.2.117 ↗結果日本人を自由に眠らせると、普段より平均1時間以上長く眠った=それだけ睡眠負債を抱えていた。たまった1時間の負債を解消するには、4日続けて長く眠る必要があった。
反証対象は15人と少なく、実験室での短期測定。最適な睡眠時間には個人差が大きい。
doi:10.1038/srep35812 ↗結果週末に好きなだけ寝て回復しても、平日の睡眠不足で生じたインスリン感受性の低下や夜食の増加は元に戻らなかった。寝だめは代謝のダメージを防げなかった。
反証2週間の短期実験で対象も少ない。週末の回復睡眠に一定の利点を示す研究もあり、結論は割れている。
doi:10.1016/j.cub.2019.01.069 ↗睡眠負債とは何ですか?
睡眠負債とは、必要な睡眠時間と実際の睡眠時間の差が、借金のように積み重なった状態です。毎日30分〜1時間の不足でも、数日〜数週間でたまり、本人が気づかないうちに脳の働きを下げます。
週末の寝だめで返せますか?
完全には返せません。平日の不足を週末にまとめて取り戻しても、代謝の乱れは元に戻らなかったという研究があります。1時間の負債の解消に4日かかった日本人研究もあり、毎日コツコツ返すほうが確実です。
自分が睡眠負債を抱えているか分かりますか?
気づきにくいのが睡眠負債の特徴です。慢性的に不足した人は能力が落ちても「それほど眠くない」と感じます。休日に2時間以上長く眠ってしまうなら、負債がたまっているサインです。