後ろにずれた時計の針と、地平線から昇る朝日を描いたイラスト
DISORDERS

朝どうしても起きられないのは怠けではない。15〜30歳の4.3%に起きる体内時計のズレ

夜どうしても眠れず朝起きられないのは、意志ではなく体内時計が後ろにずれる「睡眠相後退症候群(概日リズム睡眠・覚醒障害)」かもしれません。日本の15〜30歳の4.3%が該当し、朝の光と起床時刻の固定で改善します。反証も含めて解説します。

ILLUSTRATION / SUIMIN LAB

朝どうしても起きられないのは、意志の弱さでも怠けでもありません。夜になっても眠れず朝に起きられない状態が続くなら、それは体内時計が後ろにずれる「睡眠相後退症候群(概日リズム睡眠・覚醒障害)」かもしれません[1]。日本の15〜30歳では4.3%がこのリスクに該当します[2]

「眠れない」のではなく「眠るタイミングがずれている」――これが、ただの夜更かしとの決定的な違いです。

概日リズム睡眠障害とは

概日リズム睡眠・覚醒障害とは、体内時計と、社会生活で求められる睡眠時間帯がずれてしまい、望む時刻に眠れず・起きられない状態が慢性的に続く障害です[1]

その代表が睡眠相後退症候群(DSWPD)です。入眠と起床の時刻が大きく後ろにずれて固定し、たとえば明け方まで眠れず昼すぎまで起きられない、という形になります。本人が早く寝ようと努力しても、体内時計そのものが後ろにずれているため入眠できません。

ただの「夜型」と何が違うのか

夜型(chronotype)と睡眠相後退症候群は、似て非なるものです。

不眠症との違いもはっきりしています。不眠症は「眠る機会はあるのに眠れない」のが中核です。睡眠相後退症候群では、自分のずれた時間帯(たとえば明け方から午後)で眠れる環境なら、睡眠の質や総睡眠時間はおおむね正常に保たれます。

どれくらいの人に起きるのか

この障害は、とくに思春期から若年成人に多く見られます。日本人を対象にした大規模な調査があります[2]

鳥取県の中高大生・約5,000人の調査でも、「DSPS疑い」は大学最終学年で最も高く(1.66%)、年齢とともに増える傾向がありました[3]。夜更かしが固定しやすい思春期〜大学生で、特に注意が必要です。

寝る前のスマホの強い光は体内時計を後ろにずらすため、この障害の引き金になりやすいと考えられます。

どうすれば体内時計を前に戻せるのか

治療の柱は「光」と「起床時刻」です。米国睡眠医学会は、光療法と、適切なタイミングでのメラトニン投与を推奨しています[1]

自分でできる中心は、朝の決まった時刻に強い光を浴びることです。起床時刻を毎日一定に保ち、休日も大きくずらさないことが、ずれた体内時計を前に引き戻します。光療法と起床前進の指導を組み合わせると概日リズムが前進することは、若年者のRCTでも確かめられています[5]

治療はどこまで確実なのか

期待しすぎないために、限界も見ておきます。

そして重要な点として、メラトニンは日本では一般のサプリではなく処方薬の扱いです。海外のサプリを自己判断で使うのは避け、必ず医師に相談してください。確実で副作用の少ない一手は、朝の光と起床時刻の固定です。

受診の目安

セルフケアで戻らない場合や、日中の眠気で学業・仕事・運転に支障が出ている場合は、医療機関への相談を検討してください。窓口は睡眠外来や精神科・心療内科です。どこを受診すべきか迷う場合は、睡眠の不調は何科かも参考にしてください。本記事はセルフチェックの目安であり、診断に代わるものではありません。

この記事のまとめ

  • 朝起きられないのは意志ではなく、体内時計が後ろにずれる睡眠相後退症候群かもしれない
  • 夜型と違い、早く寝ようとしても眠れず、生活への支障が3か月以上続くのが特徴
  • 日本の15〜30歳の4.3%がリスクに該当し、思春期〜大学生に多い
  • 治療の柱は朝の強い光と起床時刻の固定。光療法とメラトニンが推奨される
  • メラトニンは日本では処方薬。自己判断せず、支障があれば睡眠外来や精神科へ

参考文献と反証

各論文の「主な結果」とあわせて、相反する結果や限界(反証)も併記しています。 集団タグは研究対象(日本人/欧米など)を示します。

  1. [1]Auger RR, et al. (2015). Clinical Practice Guideline for the Treatment of Intrinsic Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders (DSWPD, ASWPD, N24SWD, ISWRD). An Update for 2015. Journal of Clinical Sleep Medicine.総説・メタ解析 診療ガイドライン(系統的レビュー+GRADE)/ JCSM 11(10):1199-1236

    結果米国睡眠医学会は睡眠相後退症候群(DSWPD)に対し、適切なタイミングのメラトニン投与と、行動療法を併用する/しない光療法を推奨した。

    反証いずれの推奨もエビデンスの確実性は限定的で「弱い推奨」が中心。最適な用量・タイミングは未確立とガイドライン自身が明記している。

    doi:10.5664/jcsm.5100
  2. [2]Tomishima S, et al. (2022). Prevalence and Factors Associated With the Risk of Delayed Sleep-Wake Phase Disorder in Japanese Youth. Frontiers in Psychiatry.日本人対象 ウェブ横断調査 / 日本人15〜30歳・n=7,810

    結果日本の15〜30歳でDSWPDリスク該当者は4.3%。夜間の画面視聴が長いほど、また学生ほどリスクが高く、習慣的な運動はリスクを下げた。

    反証自己記入式スクリーニングに基づく「リスク該当」であり、睡眠日誌やアクチグラフによる臨床診断ではない。過大評価の可能性がある。

    doi:10.3389/fpsyt.2022.878042
  3. [3]Hazama G, et al. (2008). The Prevalence of Probable Delayed Sleep Phase Syndrome in Students from Junior High School to University in Tottori, Japan. The Tohoku Journal of Experimental Medicine.日本人対象 横断研究 / 鳥取県の中学〜大学生・n=4,971

    結果鳥取県の中高大生で「DSPS疑い」の有病率は全体0.48%。大学最終学年で最高(1.66%)、大学1年で最低(0.09%)と学年で差が出た。

    反証質問票による「疑い」であり確定診断ではない。1地域・1時点の調査で全国への一般化には限界がある。

    doi:10.1620/tjem.216.95
  4. [4]Sletten TL, et al. (2018). Efficacy of melatonin with behavioural sleep-wake scheduling for delayed sleep-wake phase disorder: A double-blind, randomised clinical trial. PLOS Medicine.欧米対象 二重盲検RCT / n=116(平均29歳)

    結果就寝1時間前の低用量メラトニン0.5mgと行動的な就寝スケジュールの併用で、プラセボより入眠が約34分早まり、臨床的改善率は52.8%対24.0%だった。

    反証効果はメラトニン単独でなく行動的スケジューリング併用下のもの。入眠前進は約34分にとどまり、長期の再発率は本試験では評価されていない。

    doi:10.1371/journal.pmed.1002587
  5. [5]Saxvig IW, et al. (2014). A randomized controlled trial with bright light and melatonin for delayed sleep phase disorder. Chronobiology International.欧米対象 RCT / 16〜25歳・n=40

    結果起床時刻を段階的に前進させる指導に光療法・メラトニンを組み合わせると、概日リズムが前進し睡眠が改善した。維持には治療の継続が有用だった。

    反証標本が40名と小規模。得られた改善も治療を中止すると薄れる傾向があり、再発・維持が課題として残った。

    doi:10.3109/07420528.2013.823200
  6. [6]Händel MN, et al. (2023). The short-term and long-term adverse effects of melatonin treatment in children and adolescents: a systematic review and GRADE assessment. eClinicalMedicine.総説・メタ解析 系統的レビュー+GRADE評価(小児・青年)

    結果小児・青年へのメラトニンは重篤な有害事象との関連は確認されなかった一方、非重篤な有害事象は増えた。

    反証思春期発来や骨の発達への長期影響はデータが乏しく不確実性が高い。慢性的な使用には注意が必要とされる。

    doi:10.1016/j.eclinm.2023.102083

よくある質問

概日リズム睡眠障害とは何ですか?

概日リズム睡眠・覚醒障害とは、体内時計と社会生活で求められる時刻がずれて、望む時刻に眠れず起きられない状態が慢性的に続くものです。最も多いのが、入眠・起床が大きく後ろにずれて固定する睡眠相後退症候群(DSWPD)です。

ただの夜型と睡眠相後退症候群はどう違うのですか?

夜型は、許される環境なら安定して良質な睡眠が取れ、生活への支障が小さい体質です。睡眠相後退症候群は、早く寝ようとしても入眠できず、登校や出勤に支障が3か月以上続く点が異なります。眠れないのではなく、眠るタイミングがずれているのが本質です。

どうすれば治りますか?

朝の決まった時刻に強い光を浴び、起床時刻を一定に保つのが基本です。米国睡眠医学会は光療法と適切なタイミングのメラトニンを推奨しています。ただしメラトニンは日本では処方薬の扱いで、自己判断ではなく医師に相談してください。

何科を受診すればいいですか?

睡眠外来や精神科・心療内科が窓口になります。日中の眠気で学業・仕事や運転に支障が出ている場合は早めに相談してください。最終的な診断は睡眠日誌やアクチグラフなどをもとに医療機関で行います。

この記事について

文:眠りの科学 編集部

本記事は上記6本の文献に基づきます。新しい研究や反証が出た場合は更新日を改めて反映します。 内容は一般的な情報提供であり、症状がある場合は医療機関にご相談ください。