睡眠の俗説検証
「8時間睡眠は必要」は、日本人全員には当てはまらない
8時間睡眠は世界共通の目標のように語られますが、根拠は意外に薄いものです。日本人は世界でもっとも睡眠時間が短い集団のひとつ。必要な睡眠時間に個人差があることを、賛否両論の研究から検証します。
短時間睡眠でも元気な「ショートスリーパー」は実在します。ただしそれはDEC2やADRB1という遺伝子の変異を持つごく一部の人だけ。自称ショートスリーパーの大半は、ただ睡眠負債を溜めているだけです。論文と反証から検証します。
4時間眠れば十分という体質の人は、本当に存在します。ただしそれは、DEC2やADRB1という遺伝子の変異を持つごく一部の人だけです[1]。そして残念ながら、自称ショートスリーパーの大半はこの体質ではなく、ただ睡眠負債を溜めているだけです[3]。
「自分は短い睡眠で平気」という自己診断は、たいてい間違っています。
短時間睡眠の体質は、努力や慣れではなく生まれつきの遺伝子で決まります。2009年、ある家系からDEC2(BHLHE41)という遺伝子の変異が見つかりました[1]。
2019年には、別のADRB1という遺伝子のまれな変異も発見されました。この変異を持つ人は、生まれつき4〜6時間の睡眠で十分という体質でした[2]。覚醒を促す脳の神経が活性化しやすいことが分かっています。
ここが落とし穴です。これらの遺伝子変異を持つ人は、極めてまれです。
「平気だと思っている」ことと「本当に足りている」ことは、別物です。
日本人を対象にした研究が、この錯覚をはっきり示しています。国立精神・神経医療研究センターの研究で、日本人を制限なく眠らせると、習慣より約1時間長く眠りました[3]。
睡眠負債が怖いのは、自覚が薄れることです。寝不足が続くと、自分の能力が落ちていることにすら気づかなくなります。
訓練でショートスリーパーになることはできません。見分け方はシンプルです。
各論文の「主な結果」とあわせて、相反する結果や限界(反証)も併記しています。 集団タグは研究対象(日本人/欧米など)を示します。
結果DEC2(BHLHE41)遺伝子の変異を持つ家系は平均約6.25時間の睡眠で健康に過ごしていた。同じ変異を入れたマウスでも睡眠が短くなり、因果が確認された。
反証ごく少数の特殊な家系の発見で、一般の「短時間でも平気」を説明するものではない。この変異を持つ人は極めてまれ。
doi:10.1126/science.1174443 ↗結果ADRB1遺伝子のまれな変異を持つ人は、生まれつき4〜6時間の睡眠で十分という体質だった。覚醒を促す神経が活性化しやすいことが分かった。
反証これも極めてまれな変異。大多数の自称ショートスリーパーはこの遺伝子変異を持たない。
doi:10.1016/j.neuron.2019.07.026 ↗結果日本人を自由に眠らせると習慣より約1時間長く眠り、自覚なく睡眠負債を抱えていた。「短い睡眠で平気」と思っていても実際は不足していることが多い。
反証少人数の実験室研究で、長く眠れたのは一時的な寝不足の解消という見方もできる。
doi:10.1038/srep35812 ↗ショートスリーパーは本当に存在しますか?
存在します。DEC2やADRB1という遺伝子の変異を持つ人は、4〜6時間の睡眠でも健康に過ごせることが確認されています。ただしこの変異を持つ人は極めてまれで、人口のごく一部です。
自分はショートスリーパーかもしれません。どう見分ければいいですか?
休日に目覚ましなしで眠っても短時間で自然に目覚め、日中ずっと眠気がないなら可能性はあります。逆に休日に長く眠ってしまう・日中眠いなら、ショートスリーパーではなく睡眠不足です。
訓練すればショートスリーパーになれますか?
なれません。短時間睡眠の体質は生まれつきの遺伝子で決まっています。睡眠時間を削る訓練は睡眠負債を溜めるだけで、集中力や健康をむしばみます。